備忘録

大きな魚を、磯から、ルアーで。 釣りに魅せられた20歳の学生が挑んだ半年間の備忘録です。~令和元年4-9月~

母島の釣り⑨

「サワラ根」

 

母島の北西部にポツンと浮かぶこの小島は、磯釣り師たちにとって夢の名礁である事は言うまでもないし、母島における磯大物釣りの歴史は、この小島から始まったと言っても過言ではない。

 

「磯の作法」でおなじみの青木さんや、石拳をはじめとする底物グループ、そして全国の凄腕ルアーアングラー達が、夢の大魚と肉薄できるこの小島を夢想し、挑み、挫折し、そして夢や憧れをその手におさめてきた。

 

この磯にはまさに「歴史」が詰まっている。

 

そして、ほんの一部に過ぎないが、自分もまたサワラ根に彫り込まれた歴史の一片を象っている。

 

19歳の夏、磯大物釣りを始めてまだ1年くらいだった頃、未熟ながらもロウニンアジやキハダ、イソマグロに対する憧れは留まるところを知らず、このサワラ根に挑んでいた。

 

道具を新調し、インターネットに転がっている先人たちの釣行記を読み漁り、自分なりに知識を蓄えて、夢に最も近づけるこの小島に足を踏み入れた。

 

けれども現実は甘くない。

19歳のガキが思い描いていたものは畳の上の水練に過ぎず、「サワラ根」と「夢」とは近くて遠かった。

 

冷凍ムロアジをエサに釣りをしていた先輩や同期達は、コクハンアラやカスミアジといった、他ではなかなか味わうことのできない魚を手にしていたが、ルアーにこだわり続けた自分はカッポレ1匹のみという惨敗。

 

大魚を手にし、興奮冷めやらぬ様子の仲間たちが、眩しくて羨ましくて仕方がなかった。

 

帰りのフェリーでされた、

「どうしてエサ使わなかったの?」

という質問に、ただただ唇を噛み締めるしかなかった。

 

 

 

あの日の挫折から約1年。

 

これまでの沖磯釣行では、遠征組にサワラ根は譲っていたし、行ったことのない磯に行く事を優先して一度もサワラ根には乗っていなかったが、今回ついに聖地に再び、足を踏み入れた。

 

 

7/14

中潮

満潮…2:58、17:04

干潮…10:04

 

今回も前回に引き続き、Kさんと2人で同礁。

本当はMさんも来る予定だったが、先週も沖磯に行っているMさんは、2週連続で家を空けるとは何事かという奥さんのお怒りにより釣りを断念。

結婚生活もなかなか大変なようだ。

 

朝一、予想以上に北からのウネリが強かった関係で、6時過ぎくらいにサワラ根沖に到着した。

 

母島に来て、大きな魚に何度も切られたし、ある程度の魚は手にしてきた。

1年前から自分がどれくらい成長しているのか。

満を持して、いざ、畳数畳ほどの小さな磯に足をふみいれる。

 

朝一、まずはベイトタックルで攻めてみるも、この日は向かい風が想像以上に吹き荒れており、ベイトタックルを扱うには不利な状況だったので、スピニングメインに切り替える。

 

海面もかなり波立っており、ダイビングペンシルではアピールしずらい海峡だったので、ポッパーとミノーがメインの釣りを展開することにした。

 

まずは西側に向かって投げていたKさんにキハダとGTのチェイス

南側に向かって投げていた自分にも、小型ではあるがロウニンアジのチェイス、もバイトには至らない。

 

時より肌をかすめる波しぶきから察するに、かなり水が冷たい。冷たい潮が入ってしまったのだろう。

潮もあまり流れていないし、これは厳しい戦いになるなと腹をくくる。

 

ルアーでしばらくノーバイトの時間が続いていたが、冷凍メアジの1匹掛けに切り替えていたKさんが何か走る魚を掛ける。

が、この魚、どうやらめちゃくちゃにデカイ。

 

隣で20キロオーバーの魚を何度か釣られたきたが、それとは比にならないほどのパワー全開のダッシュがKさんを襲っている。

 

西側でかかった何者かは北側のハエ根に向かって旋回し、ついにはハエ根の裏側にまでまわってしまった。

磯の作法で何度も読み返した、サワラ根での「教科書通り」の走り方だ。

 

Kさんも立ち位置を大きく移動して応戦。

途中で糸が根に絡むことなく移動に成功していたので、もしかしたら、と思ったが、やはりサワラ根の東側は根がキツイ。

何度目かのランで切られてしまった。

あそこまでの引きを今まで見たことがない。

40キロ、いや50キロクラスのイソマグロだったかもしれないだけにKさんも悔しそう。

 

Kさんのビッグファイトから数十分後、西側でミノーを投げていた自分にもなにやらヒット。

掛かった魚は表層を右往左往していたので、サワラかな?と思っていたが、手前でボトムに猛ダッシュ

この走り方はキハダのそれだ。

ボトムに向かってどんどん糸が出されるが、目の前に厄介な根はないので、そのまま走らせていたところ、フッと軽くなってしまう。

フックアウト。

追い合わせは4回ほどきめていたのだが。。

隣で一連の流れを見ていたKさん曰く、今のは掛かり所が浅かったのだろうとのこと。

いまいち魚の捕食スイッチが入りきっていないようだ。

 

割と長い時間ファイトしたので、休憩がてら食パンを食べて時間を潰し、今度は東側の水道に向かってルアーを投げる。

 

ブルブルとミノーが潮を噛む感触が伝わってくる。

と、ググーとルアーを巻く抵抗が重たくなる。

1秒ほどの間をおいて大きく竿を煽る。

ヒット!

掛かった魚は初っ端から猛烈に南側に向かって走っていき、手元にはプルプルという独特な微振動が伝わってくる。

 

キハダのそれだ。

 

キハダは引きの強さの個体差が激しいが、今回掛けたキハダは沖の方でこれまでにないほど走りまくる。

ファーストラン、セカンドラン、サードラン、どれも50メートル以上ラインを出されてしまった。

Kさんは裏で釣りをしていたので、大声を出して何度か呼ぶがなかなか声が届かない。

そうこうしているうちになんとか手前まで魚が寄ってきた。

と、今度は磯際のボトムに向かってまあまあな勢いで走る。

案の定、ラインが手前の根に少し噛む感触が伝わってきたので、一旦ベールを返し、ハンドドラグでテンションを調整してやる。

と、魚が根から剥がれた。

前回、隣でKさんがイソマグロ相手にそうしていたのを真似てみたらうまくいった。

これはとれるぞ!

根際の勝負所を制すべく、全身を使って一気にリフト。

ボカン、とキハダが海面に浮いてきた。勝負あり。

Kさんにギャフ掛けをしてもらい、握手を交わす。

計測の結果、20.3キロ、自己記録となるキハダだった。

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サワラ根の歴史を考えると、このサイズのキハダは下から数えた方が早いくらいの大きさに過ぎないが、1年前、この磯で泣きたくなるほどの挫折を味わった自分にとっては、納得のファイトであげることができた会心の1匹だ。

 

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まだ20歳で、経験も知識も技術も未熟だけど、一年前よりは少しだけ成長できているのかもしれない。

 

 

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ところで、リーダーは上から下までケバケバだったし、フック付属のプレスリング(リングドクダコの6/0)がへし曲げられていた。

以前にもリングドクダコのプレスリングを破壊されたことがあるし、次からはがまかつのリングドチューン管ムロに変えてみようかな。

 

なんとか1匹良い魚をあげることができてホッと一息。

灼熱の礁上で休憩を挟みつつ、15時まで投げ続けたが、その後は顔なじみの魚が何本か釣れただけで、自分もKさんも良い魚からの反応は得られなかった。

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帰りの船の上で、一年前の挫折を思い出していた。

 

特に機転もきかないし、センスも人並み以下の自分の唯一の武器は「投げ続けられること」

泣きそうになりながらルアーを投げ続けた去年があるからこそ、今、なんの苦労もなくキャストし続けられるし、キャストし続けられるからこそ、下手くそにも関わらず割と魚がヒットする。

 

ルアーにこだわり続けた、死ぬほど苦しかった、魚なんてどうでもよくなるほど惨めだった去年のあの二日間も、今思うと通らなければならない道の1つに過ぎなかったのかもしれない。

 

 

 

尊敬する釣り師の1人である青木さんが残した、(自分の中では)有名な格言がある。

 

「何らかの制限を設けなければ、"技術"というものは向上しない。

大事なのは、何にこだわって技を磨くかだ」

 

この言説が、世の中の全ての事象に当てはまるとは別に思わないけれど、釣りに関しては驚くほどよく当てはまると思う。

ルアーを飛ばす技術がないのならドローンを使えば済むし、根際の攻防を制す技術がないのなら、船の上から、太い糸と電動のリールを使えばキャッチ率は当然上がるだろう。

 

だけど、それではつまらない。

 

制限があるからこそ「技」は洗練されるし、何よりやりがいがある。

 

自分はその制限に「磯から釣ること」、そして「ルアーで釣ること」を選んだ。

なぜこの2つを選んだのかに、これといって格好いい理由があるわけではない。

 

ただ好きだから、それだけの理由。

 

「ルアー」という、何の変哲も無いただのプラスチックの塊に、自らの腕で命を吹き込む。

命を吹き込まれたプラスチックの塊は、沖合で海中の生物たちを惑わせ、狂わす。

そして大海原に浮かぶ独立礁の上で、一瞬のチャンスに夢を託す。

ルアー釣りのこの一連の流れに、自分は不思議なほど魅了されてしまうのだ。

 

だから自分は磯の上ではルアーしか投げないし(一度だけ休憩ついでにカニを放り込んだが笑)、ルアーを投げ続けている時間に幸せを感じてしまう。

 

ルアーに、磯にこだわり続けて約2年。

ほんの少しずつだけど、こだわりが身を結び始めているのかもしれない。

 

まだまだ道は長い。

世の中には自分のはるか先を行く釣り人が山のようにいて、自分は道を歩き始めたばかり。

これからの人生で、自分がどこまでいけるかなんてわからないけれど、気負わず、自分のペースで今の釣りを続けていこうとか考えながら、帰りの船に揺られていた。

 

 

 

 

「どうしてエサ使わなかったの?」

あの日、悔しくて、情けなくて、答えられなかったあの質問に、今なら少しだけ胸を張って答えられる気がする。

「そんなの、ルアー釣りが大好きだからに決まってるじゃないですか。」

 

 

 

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キハダ

ロッド:グランデージxd 100ex

リール:ツインパワーsw14000xg

本線:pe6号

リーダー:ナイロン180lb