備忘録

大きな魚を、磯から、ルアーで。 釣りに魅せられた20歳の学生が挑んだ半年間の備忘録です。~令和元年4-9月~

あとがき

 

 

全てを放り出し、釣りの旅に出たい。

 

 

大好きな釣りと、真正面から、本気で向き合いたい。

 

 

 

全ては、そんな馬鹿げた、けれどもちょっぴり夢の詰まった妄想から始まった。

 

 

 

釣りと出会ったのはもう10年も前、小学生の時。

当時お小遣いなんて貰えてなかった自分は、親に頭を下げ、店頭に並んでいる竿とリールの中で1番安いセットを買ってもらい、来る日も来る日も、ボロボロになるまで使い込んだ。

 

家の裏の畑で泥だらけになりながらミミズを捕まえて、近所の用水路に意気揚々と通って、ウキが沈み魚が掛かるのをただひたすらに楽しんだ。

 

毎日が、色づいていた。

 

 

高校生になって、勉強が忙しくなった。

運良く県内ではトップと呼ばれる進学校に合格出来たからには、大学受験でも、1番を目指してみたかった。

けれども大学受験は高校受験ほど甘くはなく、必然的に部活と勉強で手一杯。

趣味に割く時間など、当時の自分にはとてもじゃないが捻出しようがなかった。

 

 

高校に入り、釣りから離れて3年。

ついに入学した大学の新歓の釣りサークルのポスターに、心を鷲掴みにされた。

 

そこにあったのは、自分が今までやってきた釣りとは明らかに一線を画す、本気の釣りだった。

 

聞けば先輩たちは、夢の巨大魚をその手に収めるべく、北は北海道、南は与那国にまで足を運んでいると言うではないか。

 

 

釣りから離れ、勉強に没頭した末に入学した大学で、テレビの画面越し、遠い存在でしかなかった、規格外の大物と対峙する機会を、自分は与えられてしまった。

 

 

自分はなんて幸運なんだろう。

こんな夢のような機会、みすみす無駄にできるわけがない。

 

 

 

何も知らない、夢見るクソガキは心踊らせ、アルバイトに没頭しお金を稼ぎ、夏休み、先輩に連れられて夢の地へと足を踏み入れた。

 

 

18歳のクソガキは、その夢の地で、挫折を味わう。

 

これまで触れたことすらなかった太い竿、太い糸、大きくて重たいルアー。

全てが自分の扱える範疇を超えていた。

夢の巨大魚に、手が届く気がしなかった。

こんなに惨めで、悔しくて、自分の無力さを痛感するような機会は、今後の釣りにおいてもう訪れないだろう。

そう自分に言い聞かせ、翌年へのリベンジを誓った。

 

 

翌年、19歳の夏、昨年これ以上ないほど悔しい思いを強いられたガキは、さらなる屈辱を味わう。

 

 

往復4万円にも及ぶ交通費、片道26時間の大航海。

やっとの思いで捻出した時間と遠征費を費やし、挑んだ巨魚の楽園、小笠原。

 

次々と結果を出す仲間たちを横目に、ただひたすら、地獄のような惨めな時間を味わった。

自分は持っていない。

自分にはセンスがない。

大学受験まで、順風満帆な日々を過ごしていた自分にとって、あの2日間は、屈辱だった。

文字通り、地獄だった。

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遠征から帰ってきてからも、小笠原での無様な敗北は尾を引き、「そんなんだから釣れないんだよ」と、無神経な発言をされたことまであった。

 

正直あの時、釣りをやめようと思った。

 

 

こんな報われない、クソみたいな趣味投げ出して、無難に友達と飲み会に行き、無難に彼女と旅行して、、

"アツイ青春"なんてダサくてクサい、馬鹿げたフレーズなんかとっとと諦めて、無難な日常に逃げようとした。

 

 

だけど、、

あんな魚、テレビの画面でしか見たことなかったような魚、心の底から仲間が喜ぶ姿、、

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あんなの見せつけられて、途中で諦められるわけがなかった。

 

 

何もかも投げ出して、あの舞台にもう一度立ちたい。

将来のキャリアなんて、今はもうどうだっていい。

 

 

 

ーー気付けば単身、夢の舞台に足を踏み入れていた。

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正直、半年間かけて巨大魚を追いかけられる事に対する高揚感よりも、また何も成果を残せず心をへし折られるのではないか、やっぱりお前はセンスがないと周りに馬鹿にされるのではないか、そんな不安で頭はいっぱいだった。

 

実際島に来て最初の2ヶ月、何の成果も残せていない自分に対して、SNSで「何やってんの?」と皮肉られた事もあった。

 

うるさい

黙れ

じゃあお前出来んのか?

 

そんなドロドロした、器の小さい負の感情ばかりに囚われている自分が、心底情けなかった。

 

自分はこんなにも、安くて脆い存在だったのか。

何が夢の巨大魚だ。

何が巨魚の楽園だ。

頭の中では理解していたつもりだったが、結果しか見てくれない社会の理不尽さにいざ直面した時、その残酷さに、絶望した。

 

 

 

そんな暗闇の中、島の人たちの暖かさは、心の支えだった。

理想の田舎生活とまでは決して言えないけれど、釣りが大好きで島に来たという自分を多くの人が可愛がってくれたし、秘密のポイントの数々を、島の人たちは快く自分に教えてくれた。

軽トラの荷台に乗せてもらい、毎朝のように、一緒に釣りに連れて行ってくれた。

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そんな人達の前では、せめて、誠実でいたかった。

結果が出ない事に対する不安や、周囲のプレッシャーにへこたれる情けない姿ではなく、屈託のない笑顔を見せていたかった。

そして何より、こんな世間知らずのクソガキの、「大きな魚を釣りたい」というバカみたいな夢をバカにせず、親身に接してくれる島の人たちに、結果で答えたかった。

 

だから、諦めるわけにはいかなかった。

 

 

 

 

結果は、少しずつだけど、付いてきた。

 

結果が出るたびに、自分が釣ったかのように祝福してくれる島の人たちに、これまた心動かされた。

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もう周りの目なんて、どうだっていい。

ただ、この人達と、純粋に釣りを楽しみたい。

 

 

たどり着いたその思いは突然、花開いた。

見たことのない情景を、自分の目の前に運んできた。

文字通り、世界が変わった。

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どんなに努力しようと、報われない奴は報われない。

そして自分にはセンスがないから、報われるはずがない。

 

決して、そんな事はなかったんだ。

 

あの日の挫折も、惑いも、何もかも、全てはこの瞬間に繋がっていたんだ。

心の底から、そう思えた。

 

綺麗事かもしれない。というか、こんなのただの色眼鏡越しの綺麗事なのだろう。

だけど、綺麗事にだって綺麗事なりの価値が、感動があったっていいじゃないか。

それを信じ、そこに夢を見たっていいじゃないか。

心の底から、そう思えた。

 

 

大好きな事に目標を見出し、没頭する事は、恐ろしい。

求めれば求めるほど、現実と理想のギャップが、残酷なまでに浮き彫りになる。

報われないまま一生を終える人も世の中にはたくさんいる事もわきまえているつもりだ。

 

けれど、挑まないと、信じないと報われない事も、陳腐だけど、まぎれもない事実だ。真実だ。

だから自分は、勇気を振り絞り、信じてみた。

頂から見える景色がどんなものなのか、見てみたかった。

そしてこの春、右も左もわからない広大な裾野に立ち、1人、1歩ずつ1歩ずつ、頂を目指した。

 

 

これは、そんな綺麗事を信じ、挑んだ1人のクソガキの挑戦記だ。

釣りに出会い、魅せられ、寝食も忘れるほど没頭してしまった20歳のガキの釣行記だ。

大きな魚を、磯から。

そんなダイナミックで、ロマン溢れる、夢の詰まった釣りに心奪われた1人の人間の奮闘記だ。

 

読む人によっては、1人の少年のサクセスストーリーに見えるかもしれない。

読む人によっては、理解しがたい、ただイタイだけの文字の羅列に見えるかもしれない。

 

まあそんな事はどうだっていい。

ただ、半年間綴ってきた苦悩と歓びを、1人でも多くの夢見るバカな釣り人に届けられたらな。

そう心の片隅で期待して、9月29日、夢の島に別れを告げた。


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2019.9/30

おがさわら丸、朝の船内放送で目が覚めた。

眠気まなこをこすりデッキに出ると、秋の始まりと旅の終わりを告げるかのように、少し冷たくて、切ない空気が肌を刺した。

水平線から顔を出したばかりの朝日が、澄み切った空に、乱反射する。

明日からは、止まっていた日常が、半年ぶりに動き出す。

この景色を見るのはまた来年以降だな。

込み上げてくるものを胸の奥にそっとしまい、20歳の釣りバカの夢釣行記は幕を閉じる。

 

 

令和元年9月30日

おがさわら丸船内より

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